株券発行会社から「不発行」への移行で、スムーズな事業承継を目指すためのガイド
こんにちは、ハッピー事業承継コンサルタントの西尾です。いつも事業承継の窓口のブログをお読みいただきあるありがとうございます。
事業承継をスムーズに行うためには、株式の管理方法についても事前に確認しておくことが重要です。特に、株券を発行している会社にとっては、承継に向けた見直しが欠かせません。
株券の発行には、発行コストやリスク管理が必要であり、手間やリスクが多く発生するため、後継者にとっても負担が大きいものです。株式を発行する会社として残すか、それとも不発行に切り替えるかは、社長にとっても重要な経営判断です。
この記事では、株券発行会社が抱えるリスクと、不発行会社に移行する際の具体的な手順について詳しく解説していきます。事業承継の不安を減らし、安心して次の世代に引き継ぐためにも、ぜひご一読ください。
株券発行会社が抱えるリスクとは?
株券の発行は一見、企業の権利を明確にし、株主を守る手段のように思えますが、現代の会社法ではむしろ不発行にするほうがリスクを減らせるとされています。株券を発行する会社には、以下のようなデメリットが発生します。
- 株券発行による管理コストと業務負担
株券を発行すると、印刷や管理のコストがかかり、発行や株主の名義書き換えといった事務手続きが発生します。さらに、株主から発行請求があればその都度対応する必要があり、経営陣や総務部門に大きな負担がかかることもあります。 - 盗難や紛失などのリスク
株券は、現金と同じく価値を証明する重要な書類であるため、盗難や紛失のリスクが常に付きまといます。たとえば、万が一株券が盗難にあった場合、その株券を「善意取得」した第三者に譲渡されると、持ち主がその株式の権利を取り戻すのは非常に困難です。株券の紛失や盗難が原因で、意図しない株主が登場する可能性があるため、後継者や株主にとっても不安の種になりかねません。 - 「善意取得」による株主の意図しない権利譲渡
株券を発行している会社で発生しやすいのが、株式の「善意取得」による予期しない株主の変更です。株券を持っている者が善意取得者から株式を購入した場合、株主の同意や承認がなくても、譲渡された株式の権利を取得できてしまうケースがあります。会社としては、譲渡制限を設けていても、意図しない人物が株主となる可能性を完全には防ぐことができません。
事例:ある社長が株券発行により予期しないリスクに直面
ある製造業の社長Aさんは長年、株券を発行している会社を経営していました。しかし、ある日、全く面識のない人物が株主として名乗り出てきました。調査を進めると、どうやら株券が第三者の手に渡ってしまっていたのです。この株券を善意取得者が購入したことにより、社長Aさんの会社の株主としての権利がその第三者に移ってしまいました。このように、株券発行会社は管理が難しく、悪意のない第三者であっても株式を所有する権利を取得してしまうリスクがあるため、株券を不発行にすることがリスク管理のための一手となるのです。
株券不発行会社への移行がもたらすメリット
株券を発行しない「不発行会社」に移行することで、事業承継がスムーズになり、経営者も安心して会社を引き継ぐことができます。不発行会社にするメリットは以下のとおりです。
- 管理コストと手間の削減
株券の発行には印刷や保管、管理のためのコストがかかりますが、株券不発行にすると、そうした負担が大幅に軽減されます。社長や経営陣の負担が減り、より効率的な経営が可能になります。 - リスクの低減
盗難や紛失のリスクが減り、株券を使った善意取得の問題を防ぐことができます。株式が他者に流出してしまうリスクが少なくなるため、経営者や株主が安心して会社を守ることができるのです。 - 事業承継がスムーズに
株券が発行されていないことで、事業承継の際に手続きが簡単になり、株主間のトラブルも減ります。将来の事業承継が予定されている場合でも、株券がない分、よりシンプルな承継手続きが実現できるのです。
株券発行会社から不発行会社へ移行するための具体的な手順
それでは、株券発行会社から株券不発行会社に移行するためには、どのような手続きが必要なのでしょうか。以下のステップでスムーズに進めることができます。
- 臨時株主総会の開催
株券不発行にするためには、まず臨時株主総会を開き、定款変更について株主の賛成を得る必要があります。この際、議題として「株券発行を廃止し、株券不発行会社に移行する」という特別決議を行います。多くの株主の理解と賛同を得ることで、承継後もスムーズに経営を継続しやすくなります。 - 官報への「株券廃止広告」と株主への通知
定款変更が決議され、株券発行の廃止が決まったら、効力発生日を設定し、その2週間前までに官報に「株券廃止広告」を掲載します。また、株主には廃止についての通知を送る必要があります。この通知によって株主全員に変更内容を周知することで、不明確な点が残らないようにしましょう。 - 効力発生日の設定と確認
株券廃止の効力発生日を設定し、その日以降に株券発行の義務がなくなります。効力発生日までに株券廃止広告や株主への通知を済ませ、廃止の周知が完了していることを確認します。総会後の手続きが整えば、株券不発行会社としての体制が整います。
【株券不発行に移行した企業の事例】
ある中小企業の社長Bさんは、後継者への事業承継を見据えて、長年発行してきた株券を廃止する決断をしました。総会で株主からも賛成を得て、株券廃止の手続きを完了。結果として、事業承継時の手続きが簡素化され、株券管理のリスクもなくなったため、社長Bさんも安心して事業承継を進めることができました。「会社が持続的に発展し、家族や従業員も安心して働ける環境を作れた」と非常に満足されていました。このように、株券発行を廃止することは、次世代への負担を軽減する有効な手段です。
株式譲渡制限に関する定款の見直しも検討を
株券を発行しない場合でも、株式の譲渡制限を強化することで、リスクをさらに軽減することができます。たとえば、次のような条項を定款に追加して
おくと、株式の譲渡に関するトラブルを防止できます。
株式の譲渡制限
第○条
株主が当会社に譲渡承認請求をし、または株券取得者が当会社に取得承認請求する場合には、当会社所定の書式による書面に、当事者が記名捺印して、これを提出しなければならない。
この条項を加えることで、会社としては株式譲渡に関して公式な手続きを求めることができ、トラブルの未然防止が期待できます。事業承継の際に、株式譲渡を巡るトラブルが減るため、スムーズな引継ぎが可能です。
株券不発行への移行で安心できる事業承継を
株券発行会社は管理や法的リスクが多いため、株券不発行会社への移行を検討することをおすすめします。この手続きを通じて、社長や後継者が安心して事業を引き継ぐ体制が整い、将来的なトラブルのリスクも低減できます。事業承継をスムーズに進めるためには、定款の見直しを含めた対応が必要です。信頼できる承継士や司法書士と連携して、安心して会社の未来を託せる準備を進めていきましょう。
まとめ
株券の発行は、会社法により不必要なリスクが伴う可能性があります。事業承継を円滑に進めるためにも、「株券不発行会社」への移行を検討し、リスク管理を徹底することが、会社の持続的な成長のための重要なポイントとなります。新たな体制で次の世代へ事業を引き継ぎ、経営の安定と発展を目指しましょう。
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