後継者不在で日本経済に多方面で悪影響を…。
こんにちは。事業承継コンサルタントとして、多くの企業が直面する「後継者不在」の問題に日々取り組んでいる西尾です。今回は、後継者不足が企業や社会全体に与える影響について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。この記事は、専門的な内容も含まれますが、誰でも理解できるように、できるだけわかりやすくお話ししますね。
後継者不在の現状:減少傾向にあるが、依然として高い水準
まず、日本の企業が抱える「後継者不在率」の現状を見てみましょう。帝国データバンクの調査によると、2019年10月時点で、日本全国の企業における後継者不在率は65.1%となっており、これは2011年以降で最も低い数値です。さらに、後継者不在率は3年連続で低下していることがわかっています。
この数字を見ると、少しずつ状況が改善しているように見えますが、それでもまだ日本の企業の約3分の2が後継者を見つけるのに苦労しているという現実があります。特に、中小企業ではこの問題が深刻で、多くの経営者が事業を続けることができず、廃業を検討せざるを得ない状況に追い込まれています。
後継者不在が引き起こす問題
後継者が見つからないことで、企業にはどのような問題が生じるのでしょうか?
1. 雇用の喪失
まず、企業が後継者不足のために廃業してしまうと、その企業で働いていた従業員たちは職を失ってしまいます。年間で約20万から35万人が仕事を失うと推定されています。これは、たくさんの家庭が生活の不安に直面することを意味します。特に、地方にある企業が廃業すると、その地域の経済に与える影響は非常に大きく、地域全体が活力を失ってしまうこともあります。
事例:ある町工場の廃業とその影響
例えば、関東地方にある町工場が後継者不足により廃業した事例があります。この町工場は、50年以上の歴史があり、地元で愛されてきた企業でした。従業員は地元住民が中心で、工場は地域の主要な雇用先の一つでもありました。しかし、社長が高齢になり、後継者が見つからなかったために、廃業せざるを得ませんでした。
この廃業により、工場で働いていた50人以上の従業員が職を失いました。多くの従業員は年齢が高く、新たな仕事を見つけることが難しい状況でした。彼らの家族も含めると、地域全体で100人以上の生活が大きな影響を受けました。さらに、工場が閉鎖されたことで、地元の関連企業や商店も打撃を受け、地域全体の経済が縮小する結果となりました。
2. 技術やノウハウの消失
日本の中小企業には、長年にわたって培ってきた高度な技術や卓越したノウハウがあります。しかし、後継者がいないために廃業してしまうと、これらの貴重な技術やノウハウが失われてしまうのです。これは、企業だけでなく、日本全体にとっても大きな損失です。
事例:伝統工芸の消失
もう一つの事例として、ある地方都市にある伝統工芸品を製造していた小さな工房が後継者不足で廃業したケースがあります。この工房では、地元の特産品である焼き物を作っており、代々続いてきた技術を受け継いでいました。しかし、後継者が見つからず、最後の職人が高齢のために引退を決意しました。
この工房の閉鎖により、その地域で唯一残っていた伝統的な焼き物の技術が失われてしまいました。地元の祭りやイベントで使われていた焼き物は、工房の閉鎖後、他の地域から取り寄せるしかなくなり、地域の文化的なアイデンティティにも影響を与えました。また、伝統工芸品の販売によって得られていた収入が途絶えたため、地元の観光業にも悪影響が出ました。
能登も同じような危機に陥っています。私もお手伝いをしています。
こうした技術やノウハウは、一朝一夕で再現できるものではなく、失われたら取り戻すのは非常に難しいのです。これは、単なる一企業の問題ではなく、日本全体の文化や歴史の喪失につながる重大な問題です。
3. 地域経済への悪影響
さらに、企業が廃業すると、その地域の経済にも大きな影響を与えます。企業がなくなることで、地元の経済が縮小し、地域の商店やサービス業も打撃を受けることがあります。
特に、地方では企業が地域の雇用の中心となっていることが多く、その企業がなくなると地域全体の経済が衰退するリスクがあります。
事例:製造業企業の閉鎖による地域への影響
北陸地方のある町で、地元の製造業企業が廃業した事例を考えてみましょう。この企業は、地域の主要な雇用主であり、100人以上の地元住民が働いていました。会社は長年にわたり、地元の産業の中心的存在でした。しかし、後継者が見つからず、経営者が引退することになり、廃業を決断せざるを得なくなりました。
この企業の閉鎖により、地域の商店やサービス業が大きな打撃を受けました。従業員が職を失ったことで、消費が減少し、地元の商店街が閑散としてしまいました。さらに、この企業が地域のイベントや祭りのスポンサーをしていたため、地域の行事の多くが開催できなくなり、地域全体の活気が失われてしまいました。
事業承継に関する課題:経営者の高齢化と後継者不足
では、なぜこれほど多くの企業が後継者不足に悩んでいるのでしょうか?その背景にはいくつかの理由があります。
1. 経営者の高齢化
まず、経営者の高齢化が挙げられます。帝国データバンクの調査によれば、日本の企業の社長の平均年齢は、1980年には52歳でしたが、2018年には59歳9ヶ月まで上昇しています。この平均年齢は38年間連続で上がり続けており、これは経営者が高齢化しているにもかかわらず、後継者への引き継ぎが進んでいないことを示しています。
特に、コロナ禍による景況の悪化が、経営者の交代を遅らせる要因の一つとなっています。経営者が高齢化すると、体力や判断力が低下し、会社を適切に運営するのが難しくなることがあります。しかし、後継者が見つからないために、経営者は引退を先延ばしにせざるを得ない状況にあるのです。
2. 子供への事業承継の減少
もう一つの大きな要因は、子供が親の会社を継がなくなっていることです。1983年以前には、親の事業を子供が引き継ぐケースが約8割もありましたが、2020年にはその割合が約34%まで減少しました。この背景には、子供たちが親とは異なる職業を選びたいという意識の変化や、現代の厳しいビジネス環境で会社を経営することへの不安があると考えられます。
一方で、親族以外が後継者になるケースが増えつつあります。これは、社内での「内部昇格」や、外部から経営者を招く「外部招聘」といった方法が取られるようになっていることを意味します。しかし、親族以外の人を後継者に選ぶことには、信頼関係の構築や、新しい経営者が会社の文化に馴染むための時間が必要になるため、課題も多いです。
専門家のサポートを活用する
事業承継は、法律や税務、財務など、多くの専門知識が必要とされる複雑なプロセスです。そのため、事業承継士や弁護士、税理士といった専門家のサポートを受けることが成功への鍵となります。
専門家は、事業承継に関するさまざまなリスクを最小限に抑えるためのアドバイスを提供してくれます。また、専門家の助言を受けることで、経営者や後継者が気づかなかった問題点を事前に発見し、それに対処することができるようになります。
たとえば、事業承継の過程で税務リスクを回避するための対策を講じたり、後継者がスムーズに会社を引き継ぐための法律手続きを進めたりする際には、専門家の知識が不可欠です。また、第三者の視点からのアドバイスを受けることで、より客観的で現実的な事業承継計画を立てることができます。
まとめ
後継者不足という課題は、多くの企業が直面する深刻な問題です。企業が後継者を見つけられないことで、事業の存続が危ぶまれ、雇用の喪失や技術の消失といった影響が広がる可能性があります。しかし、この問題に対処するためには、早めの計画と準備、後継者の育成、そして専門家のサポートが重要です。
もし、後継者選びに悩んでいる経営者の方がいらっしゃれば、ぜひ専門家に相談し、事業承継の準備を始めてみてください。事業承継を成功させることで、あなたの会社は次の世代に引き継がれ、未来に向かって成長し続けることができます。会社を守り、日本の経済全体に貢献するためにも、後継者問題にしっかりと取り組んでいきましょう。
私のお客様で70歳を超え、事業承継が間に合わなかった。というお客様も多くいらっしゃいます。「間に合わない」となる前にお気軽のご相談ください。
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